1970年代のエロ漫画(青年誌)

1970年代のエロ漫画(青年誌)

 青年誌が創刊されて間もない頃で、何故か青年誌に大人向けの漫画を描くのをはばかるような風潮があった、そんな時の作品である。
 理由は判然としないが、児童漫画に比して何やらポルノチックで低俗なのが青年漫画だ、という思い込みが漫画家達の多くにあったような気がする。
 これを連載し始めたら、「よくも自分の名前で描くねぇ」とか何とか、非難めいた口ぶりで同じ漫画家から言われたのを昨日の事のように覚えている。

松本零士「セクサロイド」扶桑社文庫版あとがきより抜粋
初期

■松本零士

 松本零士といえば、少年向けのSF作品「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」で有名ですが、それ以前は青年誌で割とセクシャルな作品を描いてました。中でオススメしたいのが「元祖大四畳半大物語」。

 これは四畳半シリーズという、貧乏暮らしをテーマにした作品群の一つで、週刊少年マガジンで連載された作者の出世作「男おいどん」の青年誌版といった感じ。

 ボロアパートを舞台に、ひたすら怠惰な生活が描かれるダウナー系の青春漫画なんですが、同じ住人であるヤクザとその情婦等、魅力的なキャラクターが多く、漫画として非常に面白かった。

 他、同じく四畳半物「聖凡人伝」の早名礼子や、西部劇「ガンフロンティア」のシヌノラ等、男の理想像を形にしたようなヒロインキャラで、メーテルの原型はすでにこの頃から見受けられます。

 ただ…全体的にセックスシーンは多いんですが、断片的なカットのみで、直接的なエロさよりシチュエーション重視。「エロ」というより「セクシー」といった表現がよく似合う作家ですね。乳首も描かないし。

 ごく初期の作品として、68年から漫画ゴラクで連載された「セクサロイド」なども挙げられますが、この辺はまだ拙さが目立つ。何か一冊読みたいなら「大不倫伝」あたりが良いかもしれない。

「元祖大四畳半大物語」松本零士
「セクサロイド」松本零士

松本零士
「元祖大四畳半大物語」より

松本零士
「元祖大四畳半大物語」より

松本零士
「ミステリーイヴ」より

■手塚治虫

 手塚治虫は劇画ブームに当初は反発しつつも、その手法を取り入れ、ビッグコミックやプレイコミックといった青年誌で多くの劇画作品を発表してるんですが…エロ関係で有名なものというと「奇子」でしょうか。

 「奇子」は「あやこ」と読むんですが、父親が遺産目当てに妻を祖父(つまり自分の父親)に抱かせて生まれた子供で、ある事情から、大人になるまで土蔵に閉じこめられてしまいます。

 戦後、田舎豪族を舞台にしたドロドロの近親関係や、その中で歪な成長を強いられた奇子の狂気が見物なんですが、最後まで後味が悪く、カタルシスも何もない作品でした。

 また、短編集「空気の底」でも近親相姦や倒錯した性をテーマにした話を、医療SF長編「きりひと讃歌」では獣姦シーンまで描いてます。(まあ、それ目的で読むほどのものではありませんが)

 最近映画化された「MW」などは、ゴルゴ13そっくりの主人公がゲイだったりして笑いますが、何でまたプライドの高い手塚治虫が、ゴルゴそっくりのキャラを、しかも同じ連載誌であるビッグコミックで描いたのか不思議。

 基本的に、どれも暗い話ばかりでエロくも何ともないんですが、手塚治虫もこんなのを描いてたんだってことで。

「奇子」手塚治虫
ダウンロード版
「空気の底」手塚治虫
ダウンロード版

手塚治虫
「奇子」より

手塚治虫
「きりひと讃歌」より

手塚治虫
「MW」より

■石ノ森章太郎

 石ノ森章太郎というと何となく硬派なイメージを持っていたんですが、68年から連載された「ワイルドキャット」以降、プレイコミックでは下ネタ満載のエロ系作品を多数連載してました。

 中で最高傑作と呼べるのが、72年連載開始の「セクサドール」。これは主人公である売れないポルノ漫画家のところへ、何故か突然SEX用アンドロイドが送られてきて…という、まさにエロ漫画的な設定の作品。

 他、「ワイルドキャット」の後継的な「アマゾンベビイ」や吸血鬼モノの「バンパイラ」なんかも読みましたが、エロ表現ではこの作品が一番だと思う。話の内容もなかなか深い。

「セクサドール」石ノ森章太郎
ダウンロード版

石ノ森章太郎
「セクサドール」より

石ノ森章太郎
「セクサドール」より

石ノ森章太郎
「バンパイラ」より
中期

■本宮ひろ志

 週刊プレイボーイ連載の本宮ひろ志俺の空」は、70年代・青年誌エロ漫画における金字塔。大財閥の跡取り息子・安田一平が、生涯の伴侶を求めて旅をする物語で、エロだけでなく話も面白かった。

 おそらく、今の若い人が読んでも違和感なく楽しめると思います。青年誌においてセックス描写のある作品というのは60年代から存在しましたが、この作品でレベルがグンと上がった感じがする。

 今ではオッサン向けの作家というイメージが強い作者ですが、後の遊人江川達也のポジションを最初に確立した作家と言っていいんじゃないでしょうか。(ちなみに江川達也は作者の元アシスタント)

「俺の空」本宮ひろ志
ダウンロード版

本宮ひろ志
「俺の空」より

本宮ひろ志
「俺の空」より

本宮ひろ志
「俺の空」より

■吾妻ひでお

 80年代ロリコン漫画ブームの立役者・吾妻ひでおの70年代における代表作が、プレイコミックに連載された「やけくそ天使」。これは淫乱ナース・阿素湖による下ネタ全開の不条理ギャグ漫画でした。

 ちょっとヒロインがあっけらかんとしすぎててエロさは感じられないんですが、当時の不条理ギャグに興味があるなら、読んで損はありません。例えるなら、榎本俊二「えの素」のご先祖様みたいな。

 また、同時期に週刊少年チャンピオンでも「ふたりと5人」というギャグ漫画を描いており、エロ的にはそちらの方がオススメできる。

「やけくそ天使」吾妻ひでお

吾妻ひでお
「やけくそ天使」より

吾妻ひでお
「やけくそ天使」より

吾妻ひでお
「やけくそ天使」より

■佐藤まさあき

 他、この時期では、つのだじろう的な劇画タッチでエロ漫画って感じでは全然ありませんが…佐藤まさあき堕靡泥の星」も面白かった。

 主人公・神納達也は大学教授の息子ですが、教授夫人が脱獄囚にレイプされて生まれた子供で、父親から虐待を受けて育ちます。成長して父親を殺害した彼は、己の欲望を満たすために行動していくんですが…。

 主人公の善悪に対する独自の考え方や、徹底したサディストぶりが光る快作。ピカレスク物としては、今で言う新井英樹「ザ・ワールド・イズ・マイン」みたいな扱いだったのかなぁと思ったり。

「堕靡泥の星」佐藤まさあき
ダウンロード版

佐藤まさあき
「堕靡泥の星」より

佐藤まさあき
「堕靡泥の星」より

佐藤まさあき
「堕靡泥の星」より

■ふくしま政美

 ふくしま政美・滝沢解女犯坊」は、エロ劇画ブームの先駆けとなった「漫画エロトピア」で連載された作品。正直、この時代の成年向け作品で有名なものというと、この作品くらいしか調べても出てきませんでした。

 全3巻ですが、合計約2000ページという超ボリューム。電子書籍で手軽に購入できるので、読んでみましたが…女犯道を掲げて世直しの旅を続ける怪僧・竜水による、セックスバトル漫画って感じでしょうか。

 98年からは漫画サンデーで続編も連載されました。劇画なので興奮はできませんが、パワフルな肉体描写は印象的。ちなみに週刊少年マガジンで「聖マッスル」という筋肉満載の作品も描いてます。

「女犯坊」ふくしま政美・滝沢解
ダウンロード版

ふくしま政美
「女犯坊」より

ふくしま政美
「女犯坊」より

ふくしま政美
「女犯坊」より
後期

■横山まさみち

 横山まさみちやる気まんまん」は、夕刊紙・日刊ゲンダイにて、77年から作者が亡くなる2003年まで連載された、元祖?おっさん向け青年エロ漫画。男性器をオットセイに見立てた表現は有名ですね。

 ただ、内容はさっぱり知らなかったので読んでみたところ…家業のソープチェーンを継ぐために、全国SEX武者修行に出された主人公が、各地の風俗嬢とSEXバトルを繰り広げる、というもの。

 さすがに夕刊紙連載とあって、婉曲表現だらけでエロ度は薄すぎるんですが、当時の風俗産業のことなどが学べて、興味深いところもありました。まあ、若者が読むものじゃないかな。

「やる気まんまん」横山まさみち
ダウンロード版

横山まさみち
「やる気まんまん」より

横山まさみち
「やる気まんまん」より

横山まさみち
「やる気まんまん」より

■笠間しろう ケン月影 三条友美 村祖俊一 石井隆 早見純

 ついでに当時の成年誌(エロ劇画誌)について。前述のふくしま政美以外で代表的な作家というと、笠間しろうになるでしょうか。「これぞエロ劇画」という王道的な作画スタイルは「昭和の浮世絵」と呼ばれる程。

 他、ケン月影三条友美村祖俊一、後に映画監督となる石井隆などもいますが、エロ劇画出身で一番有名なのは「哭きの竜」の能條純一だと思う。80年代に入ると猟奇系で知られる早見純も出てきます。

 未だにエロ劇画誌が出版されてるってことは、50代以上の人が買ってるんでしょうね。私も何冊か読んだことがありますが、世代的にさっぱり興奮できない。サンプル画像だけでお腹いっぱいです。


ダウンロード版

笠間しろう
「魔縄の貴婦人」より

三条友美
「三条友美全集 溺愛編」より

村祖俊一
「娼婦マリー」より
当時の広告

■秋田書店(プレイコミック)

■朝日ソノラマ(サンコミックス)


2012年07月27日|エロ回顧録

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